並木通りを少し入った道。
最近できた並木横丁いこいこからは食事を楽しむ人の賑やかな声が聞こえ、
りんご庁舎のベンチではアイスクリームを食べながら束の間の休憩をする人たち。
そんな穏やかな空間を歩いていると、ふわっと体を包む甘い香りに思わず引き寄せられました。
「HOTA PASTRY」
ショーウィンドウの向こう側に広がる色とりどりの焼き菓子。
ガラスケース越しに会話をするお客さんと店員さんの楽しそうな雰囲気は、
こんなお洒落なところに私が入っても大丈夫かな、という不安を一掃してくれました。
ガラスのドアを開けると、笑顔で迎えてくれたのが「HOTA PASTRY」のオーナー、鈴木しょうたさんです。
南信州の泰阜村で生まれた鈴木さんは、パティシエを目指すため、高校を卒業と同時に東京へ進学。
パティシエの卵として東京で働いているとき、その後の鈴木さんの人生で大きな舵を切るきっかけとなる親方との出会いがありました。
「いつも、みんながやることより7歩前くらいを行く人でした。お菓子って、その時その時のブームがあるけど、ブームになるきっかけを作る人は、まだ誰もやっていないようなことをやる。その時は、なんでそんなことやってるのって周りからは言われるけど、あとから必ず人気がついてくる。親方は、時代の先駆者。常にオリジナルでした。」
そんな親方が秋田で自分の店を持つと決断したとき、鈴木さんは迷わず秋田へ向かいました。
とにかく厳しく、寝る暇なんてとてももらえなかったという修業期間。
親方から習ったことは、とにかく自分だけのアイディアを大事にするという事。
鈴木さんのお店を見渡して、そういうことなんだ、とパズルが解けたようでした。
お店に入った時から、なんかここ違うな・・・という異世界のような雰囲気があったのは、「HOTA PASTRY」のケーキが全てオリジナルだからです。
ケーキ屋さんへ行くとき、妹にはチーズケーキ、おばあちゃんにはモンブラン・・・と大体相場が決まっているのですが、ここではなかなか難しい。
ガラスケースを見渡す限り、知らない名前、初めて見るケーキばかり。
名前を見て、ケーキを上から横から見て、まるで謎解きをしているような感覚に陥ります。
ブルーベリーとカルピス・・・?
ピスタチオとイチゴ・・・?
頭の中で味を想像してみますが、きっと食べてみるのが一番ですね。
飯田には和洋のお菓子屋さんが多く、老舗店でも新しいお店でも、いつも美味しいお菓子が食べられるのは、嬉しいですよね。
でもケーキ屋さんにしたら、たくさんお店がある中で経営を維持していくことはとても大変だと思います。
鈴木さんは、どうして飯田にお店を出すことになったのか。
秋田で修行を終えた鈴木さんが、福島のレストランで責任のある立場としてパティシエをしていた時、3.11の出来事がありました。
直接津波に巻き込まれることはなかったものの、海沿いにも店舗があった為、悲しい別れも経験しました。
人と人との絆を強く実感したこの体験が、鈴木さんが地元に帰るきっかけとなり、今に至ります。
出店するにあたって、飯田人は車で移動するから、駐車場のある郊外がいいとアドバイスされました。
お店の売り上げを考えたら、確かにそうかもしれません。
でも、鈴木さんは丘の上にお店を出すことを決意。
「並木通りがとにかく素敵でした。りんご庁舎のビルも、新しくてとても綺麗。自分のケーキを勝負するのに、場所は関係ないと思っています。とにかく、負けたくないという思いが強くて。飯田だけでなく、世界を常に意識したいし、もちろん親方にも負けたくない。負けず嫌いなんですよ(笑)今は頑張って、丘の上に人が来てくれるように努力したい。」
そんな鈴木さんの営む「HOTA PASTRY」
名前の由来は、自身の名前「SHOTA」からSを取ったもの。
Sは、鈴木さんの親方が営む店の名前の頭文字です。
尊敬する親方の名前は使えない、と、Sは胸に秘めることにしました。
力強さの中に、周りの人にはいつも助けてもらっているという感謝の気持ちを持っている鈴木さん。
そんな鈴木さんの作るケーキを、みなさんも是非めしあがれ!