飯田市吾妻町の七里屋茶房さん。
街の中の喫茶店。ここには以前にも長い間喫茶店があり、地元の皆さんの集いの場になっていました。
今、また新しい灯りが灯ったここに、語らいの場ができています。
オーナーの佐藤雅彦さん。
黒縁の丸メガネがトレードマーク。
お忙しい中、テーブルに向き合ってお話ししてくださいました。
「この物件の情報を見つけ、実際に足を踏み入れた時にいいなぁと思ったんです。40年以上経つ物件ですけど、モダンで、お洒落で、開放的で。自分たちの感覚にアレンジできそうだと」
私は以前ここにあったお店にも伺ったことがありましたが、懐かしい雰囲気を残しながら佐藤さんアレンジに生まれ変わっていました。
ただ、すごく手を入れたということもなく、程よく。
以前のここに通ったお客さんがまた同じようにここに戻って来られるように。
“七里屋”はイタリアのシチリア島から。
佐藤さんはイタリア料理を専門に、長い間料理の世界に携わってきました。
体調を崩したことでそこから離れなければならなくなったとき、この道を決断。
料理は作り手でもあり、マネージャーとしての経験もありましたが、経営に関しては猛勉強したそうです。
そして2017年7月オープン。
「今の流行やSNS映えを狙うことはしたくなくて。それは誰ががやればいい。私じゃなくてもいいことですし。
それはファッションの流行と同じように流れて、また変わっていってしまう。そうでありたくはなかった。
そして、こちらの押し付けのやり方では意味がないと思いました。
お客さんが求められていることは何なのか、それを感じ取って、そこと自分のやりたい形を合わせてそれがうまくことが理想だと」
佐藤さんがこのお店をオープンするときにイメージしたのはヨーロッパの“BAR(バル)”。
街の中に溶け込みちょっと寄って、呑んで語らえる、憩いの場所。
なぜそこに人は集まるのか。
美味しいものと、人との触れ合いと、心地良い時間があるから。
「私が理想とするのは、味、接客(サービス)、雰囲気の三位一体なんです」
その何かが足りなけば心地よさは生まれない。どれもがあり、ちょうどよいバランスであれば、人はそこを求め、通う。
「あと、ここに来れば誰かに会える場所になってほしいですね。地域のローカルなコミュニティーの場。
飯田に生まれ育った自分が今度は子供たちを育てる中で、この先いづれここに戻ってくることを期待できるだろうかと日々思います。
この飯田に可能性や活力をもっと求めていいと思うし、それにはここに住む人たちのコミュニケーションがもっと必要で。
コミュニケーションがあれば、お金では買えない、もっと大切な何かが生まれそうですよね。
この先自分自身もどう人生が変わっていくかわからないと思ってますが、価値のある人生を歩みたいし、今がその過程のチャレンジの時だとすれば、この店が飯田のこの先の発展の一助の場になればとも思っています」
街の中の喫茶店の可能性。
勉強不足の私には佐藤さんの想いをここで上手くお伝えできているかわかりせんが、ただ生活の為に商売をする・・ということではない。
仕事に意味を見出し、可能性を広げ、価値のあるものにしていくということに、40を過ぎた私にはその意味の大きさ、重さに言葉がありませんでした。
「妻に会ったことも大きかったです。僕を人間らしくしてくれたのは妻でしたからね。体調を崩したり苦難の中にいた自分を認めてくれた人でした。そんな人に出会ったのは初めてでしたし(笑)」
その奥さんは笑顔でお客様を迎えられ、無駄のない動き。入り込みすぎず、放置しすぎず、ここに来た人たちの空気を感じ取り、心地いい時間を作ってらっしゃいました。
今回はお写真でご紹介できませんでしたが、そんな方です。
七里屋茶房さんのモーニングセット。
清内路のANTONさんのパンをつかったホットドッグ。
そしてモーニングにはスープと、奥さんが淹れてくださったブレンドコーヒー。
最高のひと時でした。
このお店の中で一人になった時、お二人、三人で来てらっしゃっていた方たちの会話がサウンドのように流れていました。
その会話を聞き入るのではなく、私は私の時間を過ごしていました。
でもそんな他の方の会話も、店内を流れるミュージックと共に、そこにいる心地よさや時間を演出し、時間を刻んでいたような。
かっこつけてすみません(笑)
良い時間でした。
「人と会い、人を繋ぎ留め。そんな場所でありたいですね。
どれだけ自分は生きていけたか。納得できたか。
この先も自分の人間形成はしていきたいです。ここでの出会いを大切にしながら」
最後にお邪魔した日のおススメのコーヒーを、もう一杯注文させていただきました。
出していただいたのはアフリカ・ケニア産の“ピーベリー”。
これは双子の豆だそうで、二つの豆がひっついた状態の豆。
「ローストすると香りも味わいも2倍になるんですよ」
私事ですが、私には双子の息子がいます。佐藤さんはそれはご存じなくて、お話したら驚いてらっしゃいました。
双子の子育てに正直苦難も多かったです。
6歳になった息子たちですが、大変だった分、喜びも楽しみも2倍になったと、このごろやっと思えるようになった自分に、何だか
「こういうことなんだよ」
と語りかけてくれているみたいで、忘れられない一杯になりました。
ありがとうございました。
ご夫婦お忙しい中、丁寧に長時間対応してくださって、本当にありがとうございました。
またお邪魔します。
七里屋茶房
〒395-0085 長野県飯田市吾妻町112
TEL0265-48-6993
9:00~19:00 金曜日定休